ミステリー

『首無の如き祟るもの』(三津田信三)【感想】

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鈴虫の鳴く秋の夜長に何を読みますか?

というわけで今回紹介する本は『首無の如き祟るもの』です。表紙から怖かったのでババっと流し読みました。刀城言耶(とうじょうげんや)シリーズ。ちょいネタバレありです。

あらすじ

奥多摩の媛首村(ひめかみむら)、そこには秘守一族(一守、二守、三守の三家)が住んでいた。そこで惨劇は起きた。そう、一守家に生まれた双児の片割れが十三夜参りで殺されたその日から。そして10年度にはもう片割れが…。

首無し殺人の正体は怪奇か人為か。ミステリーとホラーが入り乱れる物語。

雑誌『迷宮草子』への連載

本作は高屋敷妙子という当時媛首村の駐在巡査の妻だった人が、当時の事件を思い出して雑誌に連載しているという体をとっています。高屋敷巡査と、一守家の使用人であった斧高(よきたか)の視点で当時の事件が描かれます。高屋敷妙子自身には結局犯人が分からないのですが、連載を読んだ刀城言耶により一連の謎が明かされることになります…。

伝承が色濃く残る地

媛首村には淡首(あおくび)様という恐るべき存在が言い伝えられており、長年秘守一族、なかでも一守家の長子を祟ってきました。であればこそ、その一守家で双児が生まれるとなった際に、様々な呪いが施されたのでした。すべては淡首様を欺くために。

そして無事長寿郎(ちょうじゅろう)と妃女子(ひめこ)の双児が生まれたのでした。しかし結局2人は惨劇に巻き込まれてしまいます。まさに淡首様の祟りと秘守一族の権力争いの犠牲になったといってよいでしょう。

長寿郎が愛しい

実際にどんな事件があったかは本編を読んでいただくとして、一読したところでは、長寿郎が不憫でならない気がしました(一守家の花嫁を決める二十三夜参りで、相手に言い寄ってもめた末に頭を打って死んだと聞くとなんとも情けなく聞こえますが)。

本書からは長寿郎の気持ちはわかりませんが、二十三夜参りで「彼女」を選ぶことが一守家を存続させるための唯一の手段だったのではないでしょうか。でもさ、さっさと斧高を跡取りにしていればこの悲劇は防げたのでは? とも思いました。あぁ悲しい。

キーワードは入れ替わりと同性愛

本編の事件も語り部も、「入れ替わり」が多数使われます。また、同性愛も事件の要素としてはずせないと思います。さらにはミステリーなだけでなく、ホラー要素もあります。

誰と誰が入れ替わっているのか、あれは本当に刀城言耶なのか…全く恐ろしい話です。あと、斧高って名前が怖かったわ。首無し事件に斧ときたら何かあると勘繰ってしまいます。

600頁超の長編ですが、これだけは言えることは、読み始めたらやめられない系の小説ですね。ぜひぜひ手に取ってみてください。