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『ラブレス』(桜木紫乃)【感想】

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Audible文学チャンネルの桜木紫乃さんがゲストの回で、伊集院静氏が話題にしていた本書。ふと思い出して、シルバーウィークが終わる前にもう一冊と思い手にしました。一気読みです。

ということで今回紹介する本は『ラブレス』です。

あらすじ

北海道標茶町、開拓民の家に生まれた百合江。その生涯は波乱万丈であった。酒乱の父のもと5人兄弟の長女として過ごした子ども時代。歌手に憧れて旅芸人の仲間入りをし、ドサまわりをした時代。その後、劇団の解散、出産、結婚、離婚、子どもとの離別、自己破産…。行方不明となった我が子の位牌を胸に、死の床につく百合江に去来する思いとは。

百合江と妹の里美、その母と子3代にわたる大河ドラマ。

生きることの尊さよ

百合江の身に起こったことだけを見ていると、この人本当に運がないな、とか不幸だな、という風に思えるのですが、百合江は自身が不幸な人間だとか、可哀そうな人間だとか全く思っていないように見えます。ほんと百合江の人生を読んでいると、生きているだけで偉いというか、尊いという感情が湧きました。以下解説の抜粋です。ひたすらに生きた百合江だからこそ、その生きざまに感銘を受けるのでしょうか。

「人の一生においては、「生きた」ということだけが重要なのだ。「生きた」という、厳粛な事実の中にだけ、その人の幸福と不幸は混在している。どこから先が幸福で、どこまでが不幸か、どれほど不幸だったか、どれほど幸福だったか、などということは、本人ですらはっきりわからない。わからぬまま、人生は死が訪れるその瞬間まで、等しく続くのではなかったか。」(410頁)

私が読んだ時は、百合江の子どもの綾子が行方不明になるあたりで、心の乱れが最大級になり、以降「綾子は無事か? 綾子は無事なのか?」とばかり思っていました。一読者の立場でこんな気持ちなるのだから、百合江の気持ちはいかばかりかと思います。

物語の最後で、死の床にいる百合江の手を握る宗太郎、そして百合江の涙を目にしたら、生きた女の尊さに自分自身も涙していました。

 

以前紹介した『砂上』といい、この『ラブレス』といい、したたか(?)な女の生きざまを見せつけられました。特に本書は心洗われる気持ちになります。読んでみてください。

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