ミステリー

怒れるおばあさんのミステリー『ポケットにライ麦を』(アガサ・クリスティ)【感想】

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突然ですが、『金田一少年の事件簿』では、主人公である金田一一の身近な人が殺されたり、犯人だったりすることが多い気がします。アガサ・クリスティのミステリーではそういうことはあまりないのですが、しかし、自分の良く知る人が殺されたと知ったら彼女はどうするのか。

今回紹介する小説は、アガサ・クリスティの『ポケットにライ麦を』です。ミス・マープルが登場します。

あらすじ

投資信託会社の社長、レックス・フォテスキューが殺された。そのポケットには一掴みのライ麦。続いてフォテスキューの妻アディールが死に、そばには食べかけの蜂蜜を塗ったスコーン。さらにメイドのグラディスが絞殺され、その鼻は洗濯バサミでつままれていた。それはマザーグースになぞらえて行われた一連の殺人事件だった。

グラディスをよく知るマープルは、この残酷な殺人に憤慨し、フォテスキューの住処である水松荘(いちいそう)へ乗り込むのであった。

義憤にかられたミス・マープル

はい。自分が行儀作法を教えた娘であるグラディスの死を知ったマープルは、殺人現場へ赴き、犯人をみつけるため警察に協力します。なんともアクティブですが、その手段はひたすら事件の関係者とおしゃべりするというもの。しかしそれによって警察ではつかめない情報を手に入れ、見事犯人を推理します。立証するのは警察の仕事! いやはや、本当に情に厚い老婦人だと思いました。

大胆かつ手際のよい殺人

物語の始まりは、レックス・フォテスキューが会社で死ぬシーンなのですが、これがなかなか映画にありそうなワンシーン。また、2人目、3人目が殺されていく様は圧倒的です。特に2人目のアディールは、え、ここで死ぬの? という感じでした。

『ナイルに死す』もそうでしたが、本作の犯行も大胆です。しかし何といっても一番の見どころは、怒れるマープルではないでしょうか。いつも柔らかな雰囲気を持つマープルがここまで怒っているのは結構珍しいと思います。優しいおばあさんの憤りと涙を、ぜひ目にしてみてください。