今回紹介する本はアガサ・クリスティの『ホロー荘の殺人』です。ポアロが登場します。
あらすじ
アンカテル卿の家に招かれたポアロ。家に入るとそこで目にしたのは「わざとらしい殺人現場」であった。プールのそばで倒れている男。ピストルを手にした女。ダリアの花がいっぱい入ったバスケットを持った女。狩猟服を着た目立たない男。そして卵の入ったバスケットを持ったアンカテル夫人。だがそれは芝居のワンシーンではなく、本物の殺人現場だった。
動かない景色の中、銃で撃たれ今まさに死のうとしている男は言った「ヘンリエッタ―」と。
木霊のようなアンカテル家の人々
本書の登場人物は、ホロー荘の主人であるアンカテル卿夫婦と、その客人(大体アンカテル家の親族)です。皆それぞれに魅力のある描写がされますが、特に芸術家のヘンリエッタは「夢のような微笑み」とか、「美しくて感じやすい手」をもつ人と描かれます。こういう表現を目にしただけで、好きになりませんか?私はなりました!
アンカテル家の人々は、クリスティの他作品に比べると大人な人達というか、現実味のない人達という印象がありましたが、物語にでてくる「木霊」という言葉がぴったりだと思いました。
恋愛心理
殺人事件と関連して描かれるのが、客人たちの恋愛事情。エドワードはヘンリエッタを愛しており、ミッジはエドワードを愛している。ヘンリエッタはジョンを愛していて、しかしジョンにはガーダという妻があり、ガーダはジョンを盲目的に愛している。ホロー荘の客人だけでこんな感じなのに、さらにヴェロニカという15年前にジョンと婚約をしていた女優も登場します。どういうこった?
しかしドロドロした感じがしないのがまた不思議。木霊達の恋愛はどこまで行ってもおとぎ話のようです。
みんな犯人を知っている
この事件、担当のグレンジ警部は、調べる程に真相から離れていくといった印象を受けています。詳しいことはぜひ読んでみて欲しいと思いますが、ホロー荘の人々は犯人が分かっているのです。しかしそれぞれが巧みに協力して捜査の行く手を阻むのです。そう、死にゆく男の望みをかなえるために。