『首無の如き祟るもの』の作者だ! と思って思わず手に取りました。「角川ホラー文庫」の帯に怯えつつ、読んでみました。
ということで今回紹介する本は『犯罪乱歩幻想』です。7つの短編が収められています。
G坂の殺人事件
作品中一番ミステリーっぽいと思った作品は「G坂の殺人事件」でした。
語り手はミステリ作家志望の男。ある日いつも通り喫茶店「湖畔亭」で作業をしているとホラーミステリ作家の津田信六が庭で倒れているのを発見して……という話。
G坂とは「芸術坂」のことで、曰く芸術関係に携わる人が多く住んでいることからつけられた名称。津田信六もG坂の住人です。
語り手は同じく喫茶店の常連客の老人と「プロバビリティの犯罪」について談義しているのですが、そんな中で次の一文が印象に残りました。
「犯罪計画を練る犯人は、その成功を心から望む一方で、失敗した万一を想像して心から恐怖することも、実は楽しんでいるのではないか」(99頁)
「プロバビリティの犯罪」とは例えばこんなやつです。
「犯人と被害者は一軒の家に同居している。被害者は二階で寝ているが、必ず夜中に一階のトイレまで行く習慣がある。そこで犯人は階段の下り口に、その家の子供の玩具であるビー玉を一つ置いておく。すると被害者がビー玉で足を滑らせ、階段を落ちて死ぬかもしれない。そういう仕掛け」(98頁)
失敗した場合の恐怖を楽しむというのはなかなか理解しがたいですが、「プロバビリティの犯罪」の手法は、殺人でなくても日常的に発生してそうだなと思いました。また、逆に相手を喜ばせることにも使えそうです。
乱歩と貞子とウルトラQ
全7編のうち5編が江戸川乱歩のトリビュート作品、残る2作のうち1作が貞子のトリビュート、1作がウルトラQのトリビュート作品です。それぞれ原作を知らない私でしたが、つまずくことなく読めました。この作品から原作に戻って読んでみても面白いかもしれません。