ミステリー

『ステップファザー・ステップ』宮部みゆき【感想】

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今回紹介する本は『ステップファザー・ステップ』です。疑似親子のハートウォーミングミステリーだそうな。

あらすじ

主人公は30代の泥棒。「仕事中」に屋根から落ちたところを訳アリの双子の兄弟に助けられた。ひょんなことから双子の父親代わりをさせられることになった男と癖の強い双子の、日常にまつわる7つの物語。

夫婦こぞって駆け落ち

双子の直と哲の両親は、それぞれ別の人と半年前に駆け落ちしてしまっています。2人での生活に不自由はないのだけど、中学生ということもあり、お金と周りの目に困っていました。そこへ幸運にも泥棒の主人公が「落ちてきた」というわけ。

中学生にして肝座りまくりの2人に感心しました。いくら怪我人だといっても、大の大人、それも泥棒相手に交渉しようだなんて思わんぞ、普通。それだけ切羽詰まっていたということなのかもしれませんが。

印象に残った言葉

男は女にはなれないし、女も男にはなれない。だから、男は女に、女は男に、時には平気で残酷なことをすることができる。だが、男も女も、誰でも必ず一度は子供であったことはあるわけで、だから子供には残酷な仕打ちをすることができないのだ。」(238頁)

本当か? と思いつつ、この主人公の優しさが垣間見える部分だと思いました。

俺が言いたいのはな、俺だって淋しいと感じるってことさ。除者にされたなら。もう要らないよと放り出されたなら。おまえらは俺を、実の親の代用品、取り替えのきく部品だと思っているらしいけどな、俺にだって感情はあるんだぞ。(中略)お前らと仲良くなったら、いつかどこかでごっこ遊びを止めたとき、俺がどんな風に感じるか――おまえら、それを一度でも考えたことがあるか?」(240-241頁)

不本意ながらも兄弟の父親代わり始めた主人公ですが、子供である兄弟を傷つけるようなことはしたくない。だけどこんな日々が続いて情が湧けば沸くほど、その日が来たときに自分がより深く傷つくことを恐れているのだなと思いました。

しかし、本当の父親が戻ってきたときに自分がどれだけ傷つくか考えたことあるか、なんて聞くところが、歳のわりに大人びた双子に対して主人公は意外と若いんだなと思いました。

 

本作はもともと長編にするつもりで1997年から書かれたものらしいです。確かに続きがあるような書かれ方ではあるのですが、続編は望むなとのこと。駆け落ちした両親とか、何度が出てくる灘尾礼子先生とか、気になる部分も多いので続きを望めないのは残念な気もしますが、本作だけでも十分楽しめる作品です。