「つむらきくこ」てどこかで聞いたことのある名前だけど、どこだっけ…うーんうーん、まいっか。
ということで、今回紹介するのは津村記久子『ポトスライムの舟』です。第140回芥川賞受賞作です。
あらすじ
長瀬由紀子、29歳。築50年ボロ家に母と2人で暮らしている。生活のために工場やカフェで働き、また、データ入力の内職やパソコン教室の講師をしている彼女は、「時間を金で売る」ことにやるせなさを感じていた。そんなある日、勤務先の工場で世界一周クルージングのポスターを目にした彼女は、その代金163万円が、工場勤務で受け取る年間の手取り額とほぼ同額なことに気がつく。
工場での1年間を、世界一周という行為にかえることができる…そして彼女は163万円を貯めはじめる。
支えあう女たち
この物語、登場人物はほぼ女の人です。長瀬、母、長瀬の友人らとその子、工場の同僚など。
登場する人は皆それぞれに悩みを抱えているのですが(夫とうまくいかずに家を出たり、夫の浮気を知りその対応に悩んだり)、何となく寄り添って困難な時をやり過ごしているのが、思いがけずうらやましく感じました。
貧乏しているとお金にはシビアになりますが、薄給のナガセが銭ゲバっぽくならなくて済んでいるのも、母をはじめとした周りの人のおかげかなと思いました。特に私は「ヨシカ」という友人が好きですね。
時間を売るわたしたち
長瀬は、生活のために時間を金で売っている感覚にやるせなさを感じています。よく偉人伝では何かの夢を成し遂げるために皿洗いなどの仕事をしてお金を作るみたいな話がありますが、長瀬の場合、生活のために時間を売っているのでやるせないのかなと思います。それが世界一周という行為に換金できるとなった時、彼女の生活に一縷の望み(大げさか?)が出てきたのかもと思いました。
最終的に長瀬は163万円を貯めることが出来ます。それで本当に世界一周するかは別にして、そういう小さな挑戦が自分の気持ちを上向きにすることもあるということで、自分も励まされる気がするのでした。
文体も柔らかで、なんとなく共感する部分がある人も多い作品なのではと思いました。まだ読んだことがなければぜひ一読を。