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『砂上』(桜木紫乃)【感想】

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Audible文学チャンネルで桜木紫乃さんを知り、その時はすごく謙虚(謙虚が過ぎる?)な人だなという印象を受けました。せっかくだし何か小説を読んでみたいと思い、本書を手に取った次第。

ということで今回紹介するのは『砂上』です。

あらすじ

北海道、江別。柊令央はビストロ勤務と別れた夫からの慰謝料で細々と暮らしながら小説を書いている。いつか小説家になりたいと思いながら40歳になっていた。

母、自分、妹。令央にとって書く題材はそれしかなった。

かつて投稿した小説『砂上』をもう一度書いてみないか。編集者小川乙三の言葉を受け、執筆をはじめる令央。それは否応なしに自身と家族とを見つめなおすことを強いてくる。

女の物語

未婚の妊婦だった母。その娘がこれまた未婚かつ16歳で産んだ子ども(つまりは孫)を自分の子どもとする母。まるでとりとめのない人のように見える令央が、こんなに劇的な人生を送っているのか、と衝撃を受けました。いや、事実は小説より奇なりといいますから、実際の世の中はもっとすごいことになっているのかもしれませんが。

誰かといるって大事

母が亡くなってから令央は1人で暮らしていましたが、ひょんなことから妹の美利と暮らし始めます。母が死んでから連絡手段としてLINEを交換したというくらい関係性を持たなかった2人ですし、一緒に暮らすといってもそんなに言葉を交わすわけでもないですが、それでも1人ではないということが、一緒に住む人がいるということが令央にとって大事なことだったのではないかと思いました。

何かと頼りない感じのする令央ですから、しっかり者の美利がいると読者も安心できます。美利はいい奴だ。

読者にもぐさりとささる言葉

本作は決して暗い話ではありませんが、明るい話でもありません。また、物語に出てくる編集者小川乙三の発する言葉は、令央を突き抜けて読む人まで傷つけてくるかもしれません。

例えばこんな言葉⇒「主体性のなさって、文章に出ますよね」(7頁)。

うーん、辛辣。でも読んでみたくありません?