学生時代には、過去のことを思い返すことが多くありましたが、最近では過去を振り返ることはおろか、昨日の晩飯すら思い出すことのできない今日この頃。さて、思いがけず過去に戻ることになったらどうしようか。
というわけで、今回紹介するのは『回遊人』です。タイムリープものです。
あらすじ
脱サラし、作家として一家を支えている中年男、江川浩一。しかし筆は進まず、本は売れず、貯金を取り崩す毎日。妻とも、一人息子ともうまくいっていない。
生活に行き詰まりを感じた江川はプチ家出をし、家出先のドヤ街で白い錠剤を見つける。
やぶれかぶれの気持ちで遺書を書きそれを飲み下した浩一は、気が付くと10年前にタイムリープしていたのだった。
過去に戻ったらウハウハ…なわけない
作中で、浩一は何度もタイムリープしますが、SFの感じは全くありません。むしろ何度もタイムリープを繰り返し、自身が疲弊していく感覚とか、タイムリープに振り回され「無意味な人生の繰り返し」(265頁)に疲れ衰弱死する妻の淑子とかを見ていると、ものすごく現実的な感じがしました。
さらに、何度人生をやり直しても助けられない息子や、タイムリープする度冷めていく妻の愛など、救いのない話だと思いました(ま、最初のタイムリープではいい思いもしていたようですが)。人生やり直したからといって上手くいくわけではないという、ある種当たり前のことを目の前にして、実にやるせなかったです。
『リプレイ』もどうぞ
タイムリープものといえば、ケン・グリムウッドの『リプレイ』を昔読んだことがあります。『リプレイ』は、主人公の中年男が心臓発作を起こし、死んだと思ったら学生に戻っていた、という話です。『回遊人』と同様に何度も人生を繰り返す話ですが、雰囲気は全く違います。タイムリープに興味がある方は、『リプレイ』もお薦めです。面白いですよ!