ゴシップはいつの時代も人々が好きなテーマだと思います(それにしても、なぜ人はうわさ話が好きなのだろうか)。
というわけで今回紹介するのは『動く指』です。ある田舎町のゴシップをめぐるミステリー。初読でしたが、面白かったです。マープルが登場します。
あらすじ
傷痍軍人のジェリー・バートンは、療養のため妹のジョアナと田舎町リムストックでの生活をはじめた。間もなく、1通の手紙を受け取る。それは根も葉もないスキャンダルが書かれた匿名の手紙だった。悪意に満ちた匿名の手紙は、町の住民に無差別に届けられていた。
一体だれがこんな手紙を送っているのか? 住民たちは疑心暗鬼に陥り、ついにある婦人が自殺を図った。そして次には殺人が!
リムストックの危機を救うべく、人間性の専門家マープルが辣腕を振るう。
煙が示すもの
本人にとっては全く身に覚えのないスキャンダルだとしても、「火のない所に煙は立たぬ」という言葉があるように、周りの人々の疑心暗鬼を生み出します。そんな手紙があちこちにばらまかれるなんて、想像しただけでも恐ろしいものです。
一方で、「けむに巻く」という言葉もあり、ばらまかれる手紙は、真相から目をそらすための煙幕かもしれないわけです。
町中に届けられる煙のような匿名の手紙、一体誰が何のために書いているのか気になりませんか?
読者も疑心暗鬼
仮に、手紙に書かれていることは嘘八百だとしても、その匿名の手紙を書いた人がリムストックにいることは間違いないわけです。リムストックは、皆が知り合いといってもいいような田舎町ですから、もしかしたらあの人が書いているんじゃ…という疑心暗鬼が生じるのも無理ないことです。他の小説なら、疑いをかけられた人がそれを苦に自殺するなんて展開もありそうですね。
これは読者も同じで、読めば読むほど登場人物皆が怪しく思えてきます。ついには主人公のジェニーさえ怪しく見えてくる始末。それくらいドキドキ感が味わえる小説です。
長編ですが、クリスティの小説は読みやすいので、きっと楽しく読み切れます。ぜひ読んでみてください。