津村記久子さんの作品をたくさん読もう週間。
というわけで今回紹介する本は『君は永遠にそいつらより若い』です。津村記久子さんのデビュー作です。
あらすじ
ホリガイ、22歳、身長175センチ、女の童貞だ。就職活動も終え、ぬるま湯のような大学最後の日々をもてあまし気味に送っている。そんな日常にふと現れる暴力の影。
誰にも打ち明けられなかった、自分が児童福祉に関わる仕事に就職した理由。初めての相手となったイノギさんとその痛ましい過去。悪意によって傷つけられた子どもたち、そこにいられなかった自分、無慈悲に過ぎる巻き戻すことのできない時の流れ。
卒業から約半年、私はイノギさんに会いに行く。いつもあなたのことをおもっていたと伝えるために。
変わり者のホリガイさん
就職先も決まって長い休みをもてあましているホリガイさんの日常は、数コマの授業と、酒造工場でのバイト、あとはDVDを見たりグラビアアイドルの画像のプリントを切り抜いて壁に貼ったりすることで埋められています。本人も言っていますが、最後の趣味はやはり変わっていると思いました。
あの子を一人にしてはいけない
一番胸を打ったのは、物語の最後のほうで祖母をなくしたホリガイさんが、祖母とイノギさんのおばあちゃんが同い年であることを思い出し、イノギさんを一人にしてはいけないと思うシーンでした。
「同じ年の生まれのわたしのおばあちゃんが死んじゃったのなら、イノギさんのおばあちゃんだって近いうちにそうなってしまう可能性はあるだろうと思ったのだ。それではイノギさんが一人になってしまうのではないかと思ったのだ。彼女を一人にしてはいけないと、わたしはそう思ったのだった。(225頁)」
誰かから思われていること、気にされていること。それがわかっただけで人は生きていけるのだと思います。だから、ホリガイさんがそう思ってイノギさんに会いに行こうとするシーンが、すごく大切に思えました。
最後に、解説にある松浦理英子さんの言葉を置いておきます。
「本作品が、これを必要とするすべての人の手元に届くことを願ってやまない。<潰れるな>というメッセージとともに(242頁)。」
ゆるやかな文体とシリアスなテーマが魅力の本作品。2021年には映画化もされるようです。ぜひ観てみたいですね。