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『この30年の小説、ぜんぶ 読んでしゃべって社会が見えた』(高橋源一郎、斎藤美奈子)【感想】

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本屋さんに行くとつい検索機で「斎藤美奈子」と検索してしまいます。

ということで今回紹介する本は『この30年の小説、ぜんぶ 読んでしゃべって社会が見えた』です。

主な内容

高橋源一郎と斎藤美奈子の対談集です。雑誌「SIGHT」で行っていた「ブック・オブ・ザ・イヤー」(高橋源一郎、斎藤美奈子と編集部がそれぞれその年を代表する本を持ち寄り、話し合う)という対談を中心に収録されています。目次は以下のとおりです。

第一章 震災で小説が読めなくなった ブック・オブ・ザ・イヤー2011

第二章 父よ、あなたはどこに消えた! ブック・オブ・ザ・イヤー2012

第三章 近代文学が自信をなくしてる ブック・オブ・ザ・イヤー2013

第四章 そしてみんな動物になった!? ブック・オブ・ザ・イヤー2014

第五章 文学のOSが変わった 平成の小説を振り返る(2019)

第六章 コロナ禍がやってきた 令和の小説を読む(2021)

感想

小説を読むと社会がわかる!?

小説にはその年、ないしはその時代の空気が、圧縮されたかたちで詰まっている。いわば空気の缶詰である。空気なので個別に読んでもぼやっとしたことしかわからない。しかし何冊か組み合わさることで、あるいは鳥瞰図と虫瞰図を行き来することで、突然「わかった、これってさ」な瞬間が訪れるのだ。(349頁)」

ロマサガでいうところのひらめきの電球の出し方を教えてもらっている気がします。

時代がわかるというところまでいかなくても、こういう対談を読むと、個々の小説の読み方が人によって違って発見があるというだけで楽しいです。

たとえば、堀江敏幸『燃焼のための習作』。これは津村記久子『ウエストウイング』、柴崎友香『わたしがいなかった街で』と一緒に「嵐の中の、もうひとつの避難所」にグルーピングされています。

私は『燃焼のための習作』が時代の空気を反映した作品などとは微塵も思っていなかったのですが、3人の登場人物が事務所で呑気にずっとしゃべっている一方、外は嵐でタクシーの運ちゃんが人探しをしていて3人はそれを心配している……みたいなところから、枕木探偵事務所が一種の避難所になっていると言われてみればそうかもしれない、東日本大震災の影響が少なからずあるのかもな、と思いました。

読みたい小説群

本書を読むと、本が読みたくなると思います。

この対談では小説の内容にちょくちょく触れるし、本もテーマ別に分けられているので、それぞれの本の内容で次に読む本を選ぶこともできるし、独立した読書から一歩進んでテーマに興味をもって次に読む本を決めることもできます。

私が読んでみたいと思った本は、津村記久子『ウエストウイング』、松田青子『スタッキング可能』、李琴峰『ポラリスが降り注ぐ夜』、奥泉光『東京自叙伝』、ブレディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』、前田司郎『恋愛の解体と北区の滅亡』でした。楽しみです。