前回紹介したアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』は、クローズドサークルの最も有名な作品だと思いますが、他にも様々な作家が「孤島で皆殺し」なミステリーに挑戦しています。今回紹介するのは、北山猛邦の『『アリス・ミラー城』殺人事件』です。
あらすじ
東北に浮かぶ島、江利ヵ島に建てられた「アリス・ミラー城」。ルイス・キャロル『鏡の国のアリス』の世界のようなお城で、そこに集まった探偵たちは「アリス・ミラー」なるものを探す。ルールはたった一つ。『アリス・ミラー』を手に入れられるのは、最後まで生き残った人間のみ―。
主役は探偵たち
本作では、登場人物の大半が探偵のため、他作品の話とか、トリックの蘊蓄などがたくさん出てきます。たとえば、チェス盤の上にのった10個の白の駒をみて、『そして誰もいなくなった』に出てくる10体の人形を思い浮かべたりします。
また、探偵である彼らは、はじめから殺される可能性を認識していて、かつすぐに最初の殺人がおこるので、「アリス・ミラー」探しよりかは、殺人犯探しを中心に話は進んできます。島の滞在期間は1週間ですから、それはスパスパ死にます。しかも探偵は死体慣れしているからか、死体が発見されたときも「XXが死んだ」くらいの描写です。探偵おそるべし。
犯行の動機は…人類共通の課題
なんでわざわざ孤島まで探偵たちを呼び寄せて殺害するのか、犯人は「世界を救うために殺人を犯した」などと供述しており、最後にはその理由が説明されています。とはいえやはり犯人は異常だと思いますが。
しかしながら、本作が発表されたのは2003年ですが、犯人を残虐な行為に走らせた原因は2020年の今でも解決していません。本書をきっかけにSDGsに興味を持つ人もいるかも(いないかな)。
ミステリー慣れした頃に読むことをお勧めします
解説にもありましたが、本作は「孤島で皆殺し」もののミステリーを読んだことのある人向けに書かれている作品だと思います。なぜなら、本作は徹頭徹尾、読者を騙すミステリーだから。特にある程度クローズドサークルのパターンを知っている読者が、「そんなのありかよ!」 と言ってしまうような。
本作は、記念すべきミステリー第一作目としてではなく、何作か読んだ後で読んでみると、より騙され感があって面白いと思います。特に『そして誰もいなくなった』を先に読んでおくとより楽しめます。
『そして誰もいなくなった』の原作タイトルは、「And then there were none」ですが、『『アリス・ミラー城』殺人事件』では、「And then there was one」と閉まります。これがどういう意味なのか、ぜひ読んで確かめてみてください。
こう考えると、ミステリーって時を超えて作者同士がコミュニケーションをとっている珍しいジャンルですね。