『いつか王子駅で』で王子って北区だよなぁと思い、『この30年の小説、ぜんぶ 読んでしゃべって社会が見えた』で本書のタイトルを見たときに、北区滅亡するの? となったので読みました。
ということで今回紹介する本は『恋愛の解体と北区の滅亡』です。
収録内容
以下2作品が収められています。両方とも題名にインパクトを受けました。宇宙人が出てきたり、ウンコに代わる次世代排泄物が登場したりと、SFの要素のある作品です。
・恋愛の解体と北区の滅亡
・ウンコに代わる次世代排泄物ファナモ
感想
内省的な主人公たち?
『恋愛の解体と北区の滅亡』は20代後半の男性視点の話です。2年前に宇宙人が地球にやってきている世界で、北区で起きた宇宙人刺殺事件(!)に対する宇宙人側の声明が発表される日のお話。
その日の夜遅く、男は仕事終わりに傘を買いにコンビニへ行き、最後は風俗嬢と一緒に北区が報復攻撃を受けているニュースを見る、という話でした。
話の最初から最後まで男は自分の頭の中で色々考え事しています。それがあっちにいったりこっちにいったりします。
この感じは『ウンコに代わる次世代排泄物ファナモ』の語り手であるサヤカにもあり、2人がストレングス・ファインダーを受けたら強みとして「内省」が出るのだろうなと思いました。
乳首効果とかファナモとか
正直なところ「北区滅亡」の文言が気になって読んだ身としてはなんこっちゃ? な作品でしたが(単純に読めてないってだけだと思います)、印象に残ったのは以下2つです。
乳首効果(『恋愛の解体と北区の滅亡』より)
本屋でノーブラの女性を見た主人公が考えたこと。
「ノーブラはいいなあ。凄く得した気持ちになる。なんでだろう? 乳首なんてただの出っ張りであるのに。きっと単純なことで、普段隠されているからだ。隠すことでその価値があがるのだ。そういえば昔の姫君みたいな人達は滅多に庶民の前に姿を現さなかったんじゃないのか? もしそうであれば姫君みたいな人達は現代で言えば乳首みたいなもので、隠されることでその価値を上げていたに違いない。俺も隠れるか? いや違う違う。そこに確実にあるのに、それが隠されていなくてはいけないのだ。(62頁)」
この命名はどうかと思いますが、効果については納得してしまいました。
ファナモが解放する世界(『ウンコに代わる次世代排泄物ファナモ』より)
『ウンコ…』はサヤカとタクヤという1組の別れたカップルの話です。ドライブデート中に、完璧主義のタクヤの身に起きた悲劇、それをきっかけにタクヤはウンコをファナモに代え、我が人生の汚点を知るサヤカと別れる、という話。
「ファナモは一日二回くらい出すようだ。好きなときに出せるから便利だとタクヤは言う。これで、人生の重要な場面にウンコがしたくなってしまう恐怖から人類は解放されたんだ、と言う。わたしも人類だけど、まだその恐怖のなかにいる。わけだが、腸や肛門だって一応わたしのことを考えてくれていてよっぽどのエマージェンシーでない限り、人生の重要な場面でウンコを外に出そうとなどしない、とわたしは反論したかったけど、そのときのタクヤの前歯がすごく白かったのでなんとなくそればっかり見てしまい、結局言わなかった。(170頁)」
「今どきウンコをするような女性はお嫁にいけないらしい。(188頁)」
ファナモは現代にもけっこう受け入れられるのではないかと思いました。試験中とか仕事中とか、腹具合を気にして集中できないときありますし。
しかしお嫁にいけないとまでなるとちょっとなぁ、てな気もします。化粧とか、ムダ毛の処理とか、人間が生物として生きにくくなっていくなと感じました。ファナモには惹かれますけどね。
そしてファナモとか不老長寿の薬とか、人類が生物としての弱点を克服していくほど、例えば独裁者とか倒しにくくなってしまうと思いました。
とはいえ、この本を読んでファナモの開発をされている方がいれば、応援したいと思いました。それにしても一体どんな仕組みなんだろう。