今回紹介する本は『愛についてのデッサン』です。野呂邦暢の作品集で、表題作に加え、5編の短編が収められています。
『愛についてのデッサン』主な内容
主人公は古本屋を営む佐古啓介(さこけいすけ)。父の家業を継いで20代半ばで古本屋の店主をしています。
『愛についてのデッサン』は6話からなる作品で、副題に「佐古啓介の旅」とあるとおり、結構この主人公旅に出ます。例えば第1話ではある詩人の肉筆稿を買い取ってきてもらいたいという依頼を受け、長崎を訪れたり、第4話では亡くなった大学教授が愛人との間にもうけた子どもを探すために京都へ行ったり。古本をめぐり男と女の人間模様を描いている作品だと思います。
友子が好きだ
佐古啓介には友子という妹がいます。本作に出てくる女性はどちらかというと何か大人の雰囲気というか、酸いも甘いも知っている感じの人が多いと思うのですが、その中にあって全く色気を感じさせない(失礼)、気のいい女性です。
『愛についてのデッサン』を読んでよかったと思いました。いい出会いだった。
「友子は店番をしながら退屈をまぎらわすために、アガサ・クリスティーのミステリを読む。注意の半ばは客に向けているといい張るのだが、やがてひきこまれて物語に熱中すると、店の客など忘れてしまう。本人はそんなことはない、クリスティーを読んではいても店番をしていることを意識していると主張するけれど、怪しいものだ。」(176頁)。
読みやすい作品
著者の野呂邦暢は芥川賞作家ということで、読みにくい小説なんじゃないかと思ったのですが、意外にも『愛についてのデッサン』は読みやすい作品でした。
帯に書いてありましたが、「青春小説であり古書ミステリ」なので受け幅の広い小説だと思います。もし難しそうな著者名で敬遠している人がいたら、とりあえず第1話を読んでみることをお勧めします。