『愛についてのデッサン』が面白かったのでついこんな本を読んでみました。
ということで今回紹介する本は『野呂邦暢ミステリ集成』です。短編ミステリが8作、ミステリにまつわるエッセイが8本収められています。
印象に残った作品
『ミステリ集成』と銘打っていますが、個人的には『愛についてのデッサン』のほうが分かりやすくミステリーだったかなと思いました。また、本作はけっこう後味悪い系の話が多い印象です。一読して印象に残ったのは以下の2作でした。
「ある殺人」
医師の中尾昭介のもとに一人の患者がやってきます。患者は「島」にまつわる夢に悩まされていて、前世で人を殺したのではないかと思っています。日を追うごとに具体的になる患者の夢、それが中尾自身の過去の事件と酷似していて……という話。なんとなく星新一の作品にありそうだなと思いました。
「失踪者」
ある島での取材中に絶命した友人、彼が残したのは数枚の写真だった。出張がてら軽い気持ちでその島を訪れた久保隆一はしかし、探索中に何者かに囚われてしまいます。友人の死の謎の解明と島からの脱出をかけてサバイバルする話。
久保は広告代理店勤めの一般人ですが、かなりのサバイバル能力を見せてくれます。
エッセイ部分では色んな本が紹介されています
本書の後半はエッセイとなっています。「南京豆なんか要らない」の中で、T・チャスティン『ダイヤル911』『パンドラの匣』、C・デクスター『ウッドストック行最終バス』を「あれよあれよという間に」読んだ作者はこういいます。
「どこが面白いかといえば、人間がよく描けているという平凡な理由しかない。ミステリに機械仕掛のトリックは無用なのである。」(295頁)
「人間がよく描けている」というところで、A・クリスティ『死が最後にやってくる』の解説を思い出しました。ジャンルは何であれ、読んでいて面白い本がいいよなぁとしみじみ思いました。
さて、最後には作者自身が答えた推理小説に関するアンケートが載っていて、好きな作品として以下が挙げられています。
■国内
・鮎川哲也全作品
・松本清張『表象詩人』
・石沢英太郎『羊歯行』
■海外
・C・デクスター『ウッドストック行最終バス』
・P・D・ジェイムズ『女には向かない職業』
・エド・レイシイ『さらばその歩むところに心せよ』
個人的に読んだことがあるのは『ウッドストック行最終バス』だけですが、これはコメディシーンもあって面白い作品です。
気になるのは「鮎川哲也全作品」ですね。全部好きって、すごいファンだ。
本書を読むと鮎川哲也の作品が読みたくなる、そんな本でした。