クリスティが自らのベストに選出したという本作。早速買いに行きました。
ということで今回紹介するのは『終りなき夜に生れつく』です。クリスティ後年のノンシリーズ作品です。
あらすじ
僕(マイケル・ロジャーズ)は、若くして職を転々としているしがない男。ある日「ジプシーが丘」と呼ばれる土地で彼女に出会い、恋に落ちた。
エリーは他に類をみないほどの大金持ちだった。僕たちは秘密裏に結婚をし、「ジプシーが丘」に新居を構えた。しかし幸せな日々は長くは続かなかった。「ジプシーが丘」は呪われた土地。そして悲劇は僕たちの身にも起きた…。
幸せな日の始まりと終わりを綴る、僕の回顧録。
マイケルの回想
本作は主人公マイケルの回想という体をとっています。最後まで読むと、なんてこった! な展開が待っているのですが、終わりまで読むと途中途中のマイケルの言葉に「あぁ、そういうことだったのか」と思えます。2度読み推奨です。というか2回読みたくなります。
印象的な言葉
回想という形式をとっているからか、出てくる言葉が意味深です。今回印象に残った言葉は以下です。
『振り返ってみて、心から思う。あの日は僕の人生でいちばん幸せな日で……。(89頁)』
これはマイケルとエリーが結婚式の日取りを話しあっている場面です。これ以降は悪いことが起きるぞ、という不穏な雰囲気がでています。
『甘やかな喜びに生れつく人もいれば終りなき夜に生れつく人もいる(191頁)』
新居でエリーがギター片手に歌っている歌詞の一部です。人が生まれながらにもつ性質について歌っているのでしょうか。
「終りなき夜に生れつく」は題名にもなっているくらい象徴的な言葉です。果たして終りなき夜に生れついたのは誰だったのか…。
わかっていても悲劇を止められなかった人々の無念、取り返しのつかない過ち。記述される言葉の端々から、後悔と悲しみといった雰囲気をすごく感じました。私の感想としては「エリィィィィィ…!!!」て感じですかね。
読もう!
似たような犯人が登場するクリスティ作品はいくつかあります。が、ここまで愛の物語だったのはないかなと思いました。ポアロやマープルが登場するミステリーも面白いですが、こういう愛の物語(ただし、ミステリーでもある)も面白い。時間を忘れて読んでしまいます。ほんと、人間関係の綾を描かせたら一級のクリスティが魅せてくれます。