谷中・根津・千駄木。台東区と文京区にまたがるこの地域には、古い喫茶店や神社、個人経営のお店などがたくさんある場所という印象があります。そんな地域で暮らす主婦たちが作った地域雑誌の話です。
ということで今回紹介するのは『谷根千の冒険』です。
始まりは4人の主婦
暮らす側の住民の立場に立った地域雑誌を作りたい。そんな作者の想いから生まれた地域雑誌『谷中・根津・千駄木』。始まりは4人の主婦でした(のちに中心メンバーはこのうちの3人となる)。
主婦といっても、出版社で働いた経験のある人もメンバーにいましたが、子育てしながらの雑誌作りのてんやわんやな感じがとても伝わってきます。
谷根千(ヤネセン)のはじまり
まずは雑誌名を決めるところから会議は紛糾したようです。結局『谷中・根津・千駄木』となったのですが、「これがあんまり長いので、いつしか地元の方々から『谷根千(ヤネセン)』と略していわれるようになり、愛称として定着している(26頁)」とのこと。
なんと、谷根千という呼び名のはしりはこの地域雑誌だったのか! とびっくり。長く使われる言葉ひとつ作ってしまうなんて、すごい影響力だと思いました。
ちなみに『谷中・根津・本郷』にしようという意見もあったらしく、これが通ったら「ヤネホン」という愛称が生まれていたのだろうか…。
変わりゆく町
『谷中・根津・千駄木』の創刊は1984年。その頃から、古い家が取り壊されたり、マンションラッシュがあったりと、本書(文庫版)の発行された2002年では町の情況もだいぶ変わっているようです。とはいえ、谷根千に対しては、古き良き下町というイメージを今も多くの人が持っていると思います。
こういう町は、谷根千に限らず、まだまだ日本にいくつもあるのだと思います。しかし、特に谷根千が魅力的に思えるのは、本書のようにこの町に誇りを持ち、それを伝えようと奮闘する人がいたからだと思います。
地域雑誌『谷中・根津・千駄木』は2009年に終了したようですが、谷根千という言葉も町の人気も健在です。散歩スポットもたくさんあり、晴れた日にのんびり歩いてみたいですね。
ちなみに私は本書を読んで、高村光太郎と智恵子の家跡に行きたいと思いました。