題名を見たときは、認知症かなんかの話だと思いました。
ということで今回紹介するのは『崩れる脳を抱きしめて』です。医療・恋愛・ミステリー3拍子揃った小説です。
あらすじ
研修医の碓氷蒼馬は、実習先の病院で一人の患者「ユカリ」に出会う。脳に爆弾を抱え、外に出ることを極度に恐れるユカリと、今は亡き父親に対して葛藤を抱える碓氷。短い研修期間の中で、2人は惹かれあっていく。
想いを告げられないまま研修を終えた碓氷は、ユカリに想いを告げるためもう一度実習先に足を運ぼうとした矢先にユカリの死を知った。
本当にユカリは死んだのか?実習先へ戻った碓氷は、彼女の死を探り始める。
マイルド医療ミステリー
医療ミステリーといえば、岩木一麻『がん消滅の罠 完全寛解の謎』を思い出しますが、本作は『がん消滅の罠~』に比べてマイルドな作品です。てか『がん消滅の罠~』は怖すぎたわ。
ただ、本書でも舞台となる実習先はホスピス(「不治の病に冒された者が、心穏やかに最期を迎えるための施設(7頁)」を兼ねているので、常に死と隣り合わせであることは変わりなく、ユカリさん含め、不治の病に冒された患者が何人か登場します。
それでもあまり悲劇的な感じがしないのは、主人公の碓氷さん(26歳)やヒロインのユカリさん(28歳)が若い人で、何となく生命力を感じるからでしょうか(ユカリさんは治る見込みのない脳腫瘍を患っている方ですが…)
残された時間の中で
本書で印象に残った台詞は、ユカリさんの友人で同じく不治の病を抱えるユウさんの台詞でした。
「病気になる前は八十歳くらいまでは人生があると思っていた。だから大学まで出て、就職した。そのうち運命の人を見つけて結婚、出産、育児、そうやって年を重ねていって、最期は家族に見守られて…。(中略)けど、その未来が一気に消え去った。それまでの苦労とか努力が全て無意味になる。自分の人生ってなんだったのって思うのも当然でしょ(104頁)」
「だから、私たちは慌てて新しい人生の意味を探すの。残された時間で、なにかを遺したい、なにか意味のあることがしたいってね。(104頁)」
これって自分の身に起こり得ることだよなと思いました。何となく今までの人生がこれからも続いていくって思っていたけど、ある日突然終わりを告げられて、何だったんだ、俺の人生…てな感じですかね。
たとえ長生きしたとしても、死の床で、「あぁ、意味のない人生だったなぁ…」と思うのは少々虚しいので、楽しい人生だったと思えるように生きたいものです。
読み始めは医療×恋愛、物語の終盤にはミステリーが全面に出てくる、そんな小説でした。