普段からミステリーを読むことが多いのですが、だいたい殺人事件が起きて、物語の主人公が犯人を見つける形式のものが多いです。
そんな折、美術ミステリーという言葉を耳にしました。はて、美術ミステリーとは何ぞや?
というわけで今回紹介するのは『楽園のカンヴァス』です。
あらすじ
大原美術館の監視員(セキュリティスタッフ)として働いている早川織絵。ある日彼女に一つの指令が下される。ルソーの名作『夢』をMoMA(ニューヨーク近代美術館)から借りるために、交渉の窓口に立てというのだ。一監視員である織絵を交渉の相手として指名してきたのは、MoMAのチーフ・キュレーター、ティム・ブラウンだった。彼の名を聞いた織絵は、17年前のある夏へと思いを馳せる。
それはバーゼルで過ごしたある夏の7日間。伝説のコレクター、コンラート・バイラーからの招待であった。そこで織絵が目にしたのは、ルソーの名作『夢』に酷似した作品『夢をみた』であった。バイラーはこの作品の真贋判定を二人の人間に託す。ひとりは織絵、もう一人は当時MoMAでアシスタント・キュレーターをしていたティム・ブラウンだった。手掛かりとして渡されたのは1冊の古書。
果たして『夢をみた』は贋作なのか、謎の古書を記したのは誰か、競い合う二人の人間に生まれる友情と淡い恋心、背後に蠢くたくらみ…、ルソーに魅せられた人間たちの真剣勝負が始まる。
アートは芸術、アートは友達、アートは商品。
ルソーの研究家である織絵とティムを見ていると、絵画ってこんなにも人を引き付けるものなのだと改めて思いました。織絵は、アートは友達と言っていますが、その熱の入れようを見るに、中には友達以上の奴もいるんじゃないかと勘繰ってしまいます。
一方で、絵画は「商品」として、ビジネスの世界でも実に価値があるものとされています。例えば1枚の絵を3億で買って、5億で売ればそれだけで2億の売上ですから。たった一枚で高級車何台分の売上でしょうか。ものによっては不動産を売るよりも短期で多くの売上を出せます。だからこそ贋作問題がついて回るのでしょうが。
価値があるからこそ、大事にされ、巡り巡って私たちが目にすることができるようになるのだと思いました。
私が魅せられた絵
私自身、幼い頃は親に連れられて美術館に行くことがわりとありました。しかしたいてい企画展に行っていたので、どこも大変混んでいて、特にモネ展に行ったときは、送迎バスの込み具合に気持ち悪くなった思い出があります。
常設展に複数回行ったことがあるのは、千葉県佐倉市にあるDIC川村記念美術館と東京の京橋にあるブリヂストン美術館(現アーティゾン美術館)のみです。
前者はルノワールの『水浴する女』、後者はピカソの『腕を組んですわるサルタンバンク』目当てで行っていました。
今までは作品を見るだけで満足していましたが、本書を読んで、作品の裏側(例えば、『腕を組んですわるサルタンバンク』は、20世紀を代表するピアニストのホロヴィッツが所有していたことがあるとか)を知るとより作品に親しみがわくのだと思いました。
あー、また行きたくなってきた。
本を読んだら美術館に行こう
原田マハさんの小説は、本書の他には『デトロイト美術館の奇跡』を読みましたが、こちらの作品にもアートに親しみを感じている主人公が登場します。
本の中で主人公たちと一緒にアートの世界を楽しんだら、本の外でもアートに触れてみませんか。友達ほど親しくなれなくても、ちょっと気になるあいつとか、憧れのあの人に会いに行くくらいの気持ちで。