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『とにかくうちに帰ります』(津村記久子)【感想】

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『ポトスライムの舟』、『ポースケ』と呼んできて、もっとこの人の作品が読みたいと思って手に取りました。

というわけで今回紹介する本は『とにかくうちに帰ります』です。大きく分けて「職場の作法」、「バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ」、「とにかくうちに帰ります」の3作が収められています。

「職場の作法」

「職場の作法」は、鳥飼さんというOLが語り部となり、鳥飼さんが勤める会社の人たちのことを語っています。印象に残っているのは、とある常務について「社内で女がやっている仕事を軽んじる傾向にある。そのくせ、仕事を渡せば、期限すら示さなくても、私たちが私たちでも使えるような簡単な魔法を使って、なる早で作業を仕上げるものだと思い込んでいる(11頁)」と分析し、それを「得意先との仕事の困難さは知っていても、社内に流す仕事に関しては無知な人お姫様のように振舞うような。(11頁)」と表現する部分です。この時の鳥飼さんと私のシンクロ率400%。

あと私もペリカーノジュニア使ってたことあったな。

「バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ」

「バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ」も語り部は鳥飼さんです。職場の先輩である浄之内さんについて、頼りになるし、面白い人なのだけど、なにかものすごいマイナスのエネルギーを持っているのではないかと疑っている話。例えば浄之内さんが興味をもつスポーツ選手がことごとく凋落していくことから、自分が興味を持ったアルゼンチンのフィギュアスケート選手について話題に出すか出すまいか悩んだりしています。

「とにかくうちに帰ります」

豪雨の中、会社から家まで帰る話です。こちらは会社員のハラさん、オニキリさん、サカキさん、そして小学生のミツグくんが主な登場人物です。

大雨が降るとバスのダイヤがひどく乱れたり、ものすごく混んだりすることや、雨の中を歩いて濡れていく下半身とか、ぐじゅぐじゅの靴とか、冷えて鈍くなる感覚とか、まさに「あーわかるわー」としか思えませんでした。

また、登場する人がそれぞれ人の良さを発揮していて、本当に「雨がひどくてほんと寒かったけど、人の暖かみを感じる(197頁)」話でした。みんな無事家に帰って暖かくしてください、という気持ちになりました。

 

短編なのですぐに読めます。日常の何気ないあれこれについて、本書を読みながら静かに共感するのはどうでしょうか。