ロンドンの学生寮で盗難事件発生! 犯人の自白により事件解決と思ったら、次にはその人が自殺した?
というわけで今回紹介するのは『ヒッコリー・ロードの殺人』。ポアロものです。
あらすじ
ポアロの秘書、ミス・レモンにはハバード夫人という姉がいる。ハバード夫人の働く学生寮では、最近盗難が相次いでいるという。しかし盗まれたものは靴や口紅、リュックなどのとるに足らないものばかり。やがて犯人の自白により窃盗事件は解決…と思われたが、当の犯人が謎の死を遂げた。
盗まれた品々に隠された悪意をポアロが巧みに見抜く。
盗難事件に潜む悪意
一見なんてことない盗難事件。実は、盗品はそれぞれが違った理由で盗まれたのでした。それがごっちゃになって、見た目には他愛ない盗みに見えていたというもの。
窃盗の一つは、意中の相手の気を引きたいがために行われたものでしたが、それすらも悪意ある人により入れ知恵されたものでした。
そそのかされて悪いことしたあげく殺されてしまうなんて、哀れすぎやしませんか。
犯人の一人は、子どもの頃から始末に負えなかったといわれている人物です。幼いころからその悪の片鱗が現れていたという部分から、クリスティのノン・シリーズ『ゼロ時間へ』を思い出しました。
他作品の話も出てきます
『ヒッコリーロードの殺人』が発表されたのは1955年。ポアロものでは後半の作品です。このひとつ前のポアロものが『葬儀を終えて』(1953年)。もひとつ前が『マギンティ夫人は死んだ』(1952年)です。
学生寮にポアロが訪れた際の学生たちの噂話「ずっと前に、ある掃除婦が殺された事件で無実の男があやうく犯人にされそうになったとき、この探偵が真犯人を発見してその無実の男を救ったことがあったぜ」(54頁)は、『マギンティ夫人は死んだ』のことだと推測できますし、物語の最後に登場するエンディコット老人は『葬儀を終えて』に登場する弁護士のエントウィッスル氏と思われます。
ポアロシリーズは、一編一遍が独立していて、他作品との直接的なつながりはほぼないと思うのですが、こうして他作品の話題が出てくると、ムフフといった気持ちになります。
ところで、本作のポアロの口調にところどころ違和感がありました。ポアロは、誰に対しても慇懃もしくは慇懃無礼な態度をとっていると思いましたが、若者相手だからフランクな口調になっているのですかね。
クリスティ作品が好きなら、一度読んでみてはいかがでしょうか。