ミステリー

『ブラウン神父の童心』(G・K・チェスタトン)【感想】

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津村記久子さん『君は永遠にそいつらより若い』の巻末インタビューかなんかで紹介されていた記憶があり、買ってみました。

というわけで今回紹介する本は『ブラウン神父の童心』です。「青い十字架」から「三つの兇器」まで全12編が収められた短編集です。

主な登場人物

どの話にも登場するのはブラウン神父と探偵のフランボウです。

ブラウン神父は、背が低く愚鈍な印象を与える人で、「その顔は、ノーフォークの団子そっくりにまんまるで、間が抜けており目は北海のごとくにうつろ(12頁)」と表現されます。しかし、神父という職柄上、犯罪者より犯罪に詳しいのか、犯罪心理に明るいのか、ことごとく事件の真相を見つけます。そしてこれまた神父であるがゆえに、犯人を捕まえて終わりということはなく、犯人を説得したり真相を胸に秘めたりするところがあります。

探偵のフランボウも、ブラウン神父により改心した人のひとりです。もともとは天下の大泥棒で、「青い十字架」「奇妙な足音」「飛ぶ星」では悪党フランボウが見られます。

印象に残った言葉

犯人は創造的な芸術家だが、刑事は批評家にすぎぬのさ(17頁)」

「青い十字架」から。『名探偵コナン』シリーズで、コナンと怪盗キッドが似たようなやり取りをしていた気がするのですが、ここからきているのですかね。

人間というものは、善良な生活なら一定の水準を保つことができるかもしれぬが、悪事の一定水準を保つなんてことはむりな相談なんだよ。悪の道は、もっぱらくだるいっぽうさ。親切な男が酒飲みになると、とたんに残酷になる。正直な男でも、人殺しをすれば、嘘つきになってしまう。(132頁)」

これは「飛ぶ星」のなかでブラウン神父がフランボウを説得する言葉の一部ですが、身に沁みます。神父というのは本当に人の様々な側面を知っているものなのだと思いました。

刑事ヴァランタン

短編集の最初の2話「青い十字架」と「秘密の庭」にはヴァランタンという刑事が登場します。ブラウン神父、フランボウに次ぐメインキャラです。このヴァランタン刑事の登場と退場は、かの有名なゲーム『逆転裁判』に登場する綾里千尋(主人公成歩堂龍一の先輩弁護士)ばりの衝撃がありました。

 

『ブラウン神父の童心』に収められた短編は、全て1910年~1911年に発表された作品です。今から100年以上も前に創作された物語ですが、今も面白いってのはやっぱり不思議なものです。