ポアロ、マープル、トミー&タペンスそしてパーカー・パインだけじゃない。クリスティの生み出した「探偵」は。
ということで今回紹介する本は『謎のクィン氏』です。短編集です。12編が収められています。
収録作品
1 クィン氏登場
2 窓ガラスに映る影
3 <鈴と道化服>亭奇聞
4 空のしるし
5 クルピエの真情
6 海から来た男
7 闇の声
8 ヘレンの顔
9 死んだ道化役者
10 翼の折れた鳥
11 世界の果て
12 道化師の小径
クィン氏とサタースウェイト氏
表題作にもあるとおり「クィン氏」の話ですが、物語はサタースウェイト氏を中心に進んでいきます。試しに1つめの「クィン氏登場」はこんな話です。
「クィン氏登場」
大晦日、ロイストン荘でのパーティーにサタースウェイト氏は参加していた。夜も更け客も減った頃、この館の前の持ち主が拳銃自殺した話へ話題が移っていた。折しもそのとき、ロイストン荘へ現れたクィン氏。
男はなぜ拳銃自殺をしたのか? 客たちはかの事件の回想を通して真相に迫っていく……。
神秘的なクィン氏
クィン氏自体はそこにいるだけで、推理をしません。むしろサタースウェィト氏がクィン氏から「示唆」を受けて推理をする感じで物語は進んでいきます。
また、クィン氏は事件現場ないし事件が起きそうな場所に突如現れ、真相が判明すると同時にその場からいなくなる、まさに謎、神秘の存在です。おそらく人間ではない何者かです。
しなびた妖精 サタースウェィト氏
クィン氏の神秘的な感じも良いですが、人間観察が趣味のサタースウェィト氏の憎めない人柄も魅力的です。
「サタースウェィト氏は、すこし背が丸まった、六十二歳のしなびた男で、じっと探るような目つきは、どことなくいたずら好きな妖精を連想させた。」(11頁)
こんな中年男性が、男女の愛にまつわる12の事件を明らかにしていく様に興味をもったなら、ぜひ読んでみてください。