なんと32年越しに完成した作品なんだそうです。
ということで今回紹介する本は『倒錯のロンド』です。叙述トリックネタバレありです。
あらすじ
月間推理新人賞の受賞を目指し小説執筆にいそしむ山本安雄。難産ながらも渾身の一作『幻の女』を書き終えた。そして見事月間推理新人賞を受賞した『幻の女』。しかし作者の名前は「山本安雄」ではなく「白鳥翔」だった!
自身の作品を盗作されたと信じる山本は執念深く白鳥を追い回すが……。倒錯と盗作が繰り返される悲喜劇。
感想(ネタバレ)
物語の順をおってみる
主な登場人物は山本安雄、永島一郎、白鳥翔の3人です。一読した限り以下のような話だと思います。
0 白鳥:『幻の女』を書き、第20回月間推理新人賞を受賞する
1 山本:白鳥の『幻の女』を写生して『幻の女』を書く
2 山本:写生した『幻の女』を清書してもらうため、親友の城戸に預ける
3 城戸:清書した『幻の女』を電車に置き忘れる
4 永島:城戸が置き忘れた『幻の女』を拾う
5 永島:城戸を殺害する
6 山本:『幻の女』を再度書き上げる
7 永島:「白鳥翔」の名前で『幻の女』を第21回月間推理新人賞へ応募する
8 山本:山本安雄の名前で『幻の女』を第21回月間推理新人賞へ応募する
9 山本:白鳥が『幻の女』で(第20回)月間推理新人賞を受賞したことを知る
10 山本:白鳥に『幻の女』を盗作されたと信じ、白鳥に嫌がらせを始める
11 白鳥:恋人立花広美の殺人容疑で捕まる
12 山本:白鳥のマンションで『倒錯のロンド』を書き始める
13 永島:『倒錯のロンド』を奪い『盗作の進行』として月間推理新人賞へ応募する
14 永島:城戸・立花の殺人容疑で捕まる
15 白鳥:山本『倒錯のロンド』を盗作し、完成させる
16 山本母:白鳥を殺害し『倒錯のロンド』を持ち帰る
17 山本(折原一):『倒錯のロンド』を江戸川乱歩賞へ応募する
18 山本(折原一):『倒錯のロンド』が江戸川乱歩賞を受賞する!?
まさに倒錯(盗作)のロンド
物語のはじめから、主人公の山本は正気と狂気の狭間にいました。
実は山本が自分で書いたと思っている『幻の女』は、白鳥が書き第20回月間推理新人賞を受賞した『幻の女』でした。
山本は白鳥の『幻の女』を自分の作品と思い込み、そのまま写生して第21回月間推理新人賞に応募したわけです。
さらに山本の『幻の女』の原稿を拾った永島が、「白鳥翔」の名前で同じく第21回月間推理新人賞に応募したからややこしい。
そしてそして、普通ならここで物語が終わってもよさそうなものを、今度は逆に白鳥が山本の書いた『倒錯のロンド』を盗作するという流れ。まさにロンド。
最後には山本=折原一となり、『倒錯のロンド』が現実の江戸川乱歩賞を受賞するかという話につながっていきます。虚構と現実が入り乱れます。
読んでよかった~母親の一撃が印象的
さて、巻末の著者解説には以下のコメントがあります。
「私の『倒錯のロンド』は、江戸川乱歩賞を受賞することによって完成するミステリーである。結果的に受賞できなかったことは、この小説の「瑕疵」というか重大な「欠陥」になっている。(中略)受賞できなかったことをマイナス十点とするなら、得点は百点満点中で九十点くらいと考えていいだろう。(388-389頁)」
並々ならぬ作者の思い入れを感じる作品です。読んでよかったと思いました。
個人的には、最後に出てくる母親がさすがすぎる。山椒ピリリな感じで、子を想う母は最強で最凶だと思いました。
それにしても、推理作家を目指す山本も、ミステリーには明るくないという城戸も、普段あまり本を読まない永島をも魅了した白鳥の『幻の女』は果たしてどんな作品だったのか、読んでみたいものです。